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カラス被害と対策 ~防鳥商品の開発者が考える

鳥害を引き起こす鳥の種類は様々ですが、その中でも特異な存在といえばカラスだと思います。カラスが他の鳥と違うのは、黒く大きい身体や特徴的な鳴き声やだけでなく、引き起こす被害・公害を見れば一目瞭然です。
カラスによる鳥害は他の鳥のそれと比べて質的に全く異なり、もはやそれが一つのカテゴリーといえます。

多くの鳥対策商品が存在する現代にあっても、カラス対策に決定的なものはないのですが、その理由もカラスの特異性が関係しています。今回は、カラス被害について防鳥商品の開発者目線で考察します。

カラス被害の特徴

カラスは他の鳥がやらないことをする

カラスが引き起こす被害は、他の鳥たちと同じく糞・騒音といった一般的な鳥害に加え、以下のようなカラス特有の公害があります。

  • ゴミ箱(袋)からゴミを出して漁る
  • ハンガーなどで電柱に営巣してショートさせてしまう
  • 子育ての時期になると近づく人を威嚇する

他にも、クルミを高いところから落として車に踏ませて割ったり、滑り台で滑って遊ぶといった遊戯行動をするなど、知能が高く「他の鳥がしないことをする」鳥であるといえます。

地域全体に被害を与える

ハト被害といえば、すぐに糞被害をイメージする方が多いと思いますが、被害が発生する場所は意外と定まっていたりします。それは、「高い」「暖かい」「狭い」「屋根がある」など条件に合致するケースで、これらの条件から外れるほどハト被害は減少傾向にあります。

一方、カラス被害はこのような条件や特定のスポットに限定されることなく、その地域全体に影響を与える傾向があるように思います。“カラス公害”という言葉には、カラスが起こす「物理的被害」に加えて、その黒くて大きく何をするかわからない不気味な存在感なども意味として含まれると思います。

開発者の視点から見る、カラス対策とハト対策の違い

一般的なカラスに対するイメージは、「賢い」「知能がある」といったものだと思われます。現在ではカラスに対する様々な研究の過程で、それらを裏付ける結果も得られているようです。

このカラスの賢さが、鳥害の中でもカラスが引き起こす問題の複雑さと対策の難しさに繋がっていると考えられます。防鳥商品の開発は、簡単にいうと「人と鳥の知恵比べ」です。

では、防鳥商品を使った場合、カラスとハトではどのような違いがあるのでしょうか。下表はシンプルな対策の代表として、剣山タイプで最高の防鳥性能※1を持つ『バードレスマット 2型』とその防鳥効果についてハト・カラスで比較したものです。

  • ※1 弊社製品において
  • ※設置の仕方によって効果には大きく差が出ますので、設置の際は必ず取付説明書をご熟読ください。
    (マンガでわかる鳥害対策「第6羽 剣山式の鳥よけ②」を参照)

ハトの行動は予測可能

比較表からもわかるように、ハト対策の場合、飛来してほしくないところに適合した剣山型マットなど専用の対策商品を設置することで効果が期待できます。

その理由は、ハトの動きがシンプルだからだと考えています。彼らの動きというのは「着地できるか?歩けるか?」といった簡単な判断の組み合わせでできているように考えられます。つまり、困難や障害物に向き合った時に「どうすればよいか」といった解決へ向けての思考はないように見受けられます。

外敵からの距離、巣や雛鳥がいる時の本能的な伸びしろを考慮したとしても、ハトの行動はほぼ我々の予測可能な範囲に留まります。
行動がシンプルな生物ですので、対策方法もシンプルなもので可能ということです。

カラスの行動は予測不可能

一方、知能があるとされているカラスは、障害物があれば「対処する」ということができます。私の経験では、カラスは障害物に対して「アクションを行う」、「飛び去る」といった選択を行ないます。このアクションは「壊す・変形させる」といった内容でした。
もし彼らがこの行動を繰り返せば、通れなかった場所にも通れる道ができます。つまり、障害物があっても結果として歩けるようにする可能性があると考えられます。

また、「飛び去る」という選択をしても、カラスの場合は一時退却しただけで諦めたとはいえません。また、他の行動をとる可能性もあります。カラスの知能と空を飛ぶという特技の掛け合わせから繰り出される行動は、現時点では予測不可能です。

物理的な対策では厳しい場面も

とにかく、カラスは我々の考える物理的な対策方法を回避して無効化するくらい賢く、さらにハトなど他の鳥に比べて大きく、力があります。
したがって、剣山タイプで最高の防鳥性能を持つバードレスマット2型は、ほとんどの場面でハト被害を解決できますが、カラス対策として効果があるかどうかは現場によって差があります。既に巣があり雛がいるなど極めて深刻な鳥害ステージの現場などは、難しい場合があります。

結果として、カラスに対して“どのような状況でも必ず効果を発揮する”と言えるシンプルな防鳥商品は存在しない状態になってしまっているのだと思います。

カラス被害を減らすためにできること

ではカラス被害に遭ってしまった場合、解決策はないのでしょうか?私はあると考えています。
ただし、「解決できる人(街)」と「解決できない人(街)」に分かれると思います。

鳥害にはシーソーのような一面があります。自分が上がれば相手が下がる───つまり、自分の街に鳥が増えれば隣街は減る、といった相対的な関係です。
鳥から見た時に「自宅」と「近隣地域」が相対的に比較され、対策の成否が決まります。カラス対策で成果を出す側になるための重要なポイントを解説します。

カラス対策の基本はハト対策と同じだが、条件はシビア

鳥害対策は「大きな壁を一気に突きつけることで最大限の防鳥効果を引き出せる」と以前のコラムでお伝えしました。
これは、カラスも例外ではありません。対策を小出しにすると、かえって鳥害を悪化させかねないことも以前のコラムで書いた通りです。

鳥の中でもカラスは最も手強い存在といえますので、現場にあわせて不備なく対策することが必須です。具体的なカラス対策としては、剣山タイプで防鳥を考えるのであれば、針の長さ15cmタイプで隙間なく一気に対策を行うのがよいでしょう。

カラス対策も基本的にはハト対策と変わりません。ただし、鳥害の中で最も難易度が高いカラスは条件がシビアになるということです。
例えば、『バードレスマット2型』では以下のように設置を行ってください。

  • カラスが飛来する壁面ぎりぎりに設置、もしくは針のはみ出し設置を行う
  • 余分な隙間を作らないようにする
  • カラスが飛来しはじめたらすぐに設置する
  • 対策は一気に行う

また、はじめに述べた「他の鳥がしないことをする」と関連しますが、カラスに効果が無いと思われるモノは絶対に使わないことも重要です。カラスの行動は予測できません。効果のないモノを使って新たな問題を引き起こす可能性が否定できないというのがその理由です。

私の経験ですが、カラスが「面白い」と感じたらそれを遊びとして繰り返すということがありました。その面白さはヒトに予測できるものではありません。防鳥効果の無いものは新たな火種になる可能性があります。カラス対策では、ベランダ周りや庭先などに不用意に物を置かないようにすることも大切です。

まずは、隣近所と比べて狙われにくくする

カラス対策を行う場合、隣近所と比べてその対策が相対的に強力であれば効果があります。逆に、対策が不十分だとカラス被害は増える可能性が高くなります。

カラスは常に隣近所と比較して手薄な部分を突いてきます。例えば、先程挙げた強力な剣山タイプ『バードレスマット2型』で対策する場合でも、まわりと比べて対策時期が早いほど効果が出やすいといえます。

対策は物理的に飛来を防ぐだけではありません。カラスの意識から外れることもとても重要です。本コラムの冒頭でカラス被害の一例として「ハンガーで電柱に営巣してショートさせてしまう」という話を挙げましたが、ショートの原因となるワイヤーハンガーはどこかのベランダから持って来たものと考えられます。
集合住宅であれば、一面に並んだベランダの中で比較した結果、狙われたのかもしれません。あるいは戸建て住宅の場合も南側に並んでいる物干し竿を見比べ、取りやすいところから持ってきたのかもしれません。

カラス被害に遭うということは、「隣近所の中からカラスに選ばれた」といえます。つまり、隣近所と比較して意識されないようにすれば、ターゲットになりにくいということです。カラス対策では、隣近所の中でいち早く高い防鳥意識を持って行動できるかという点も重要なポイントとなります。

つぎに、近隣地域の中で狙われにくくする

少しエリアを広げて、近隣地域の中で自分の街がカラスに狙われない方法について考えた時に最も効果が高いのは、みんなが防鳥意識を高く持って地域一丸で取り組むことです。

鳥害が発生する原因を考えると、そのひとつに近隣エリアと比較して良い餌場であるということが考えられます。
ハトなどの場合は防鳥商品を用いて居心地のよい場所を排除したり、餌になるようなものをなくすなど解決に向けて幾つかのアプローチが存在します。一方、確実な対策方法が存在しないカラスに対して残されているのは、「餌場としての魅力を減少させてカラスを寄せ付けないこと」だと思います。

例えば、町内のゴミステーションでカラス対策を考えた場合、カラスが絶対に中のゴミにアクセスできないように金属製フェンスなどが必要です。その上で、ゴミ出しをする時間などのルールを「みんなが」高い意識で守る必要があります。

街中でカラスがゴミを漁っている現場の多くは、カラスよけのフェンスが金属製ではなく樹脂ネットを被せてあるだけだったりします。樹脂製のネットは、隙間ができたり破れやすくなってしまいます。逆に、フェンスが金属製でもゴミを入れた後の締め方が不十分でカラス被害に遭ってしまうこともあります。

せっかくゴミステーションにカラス対策をしても、みんなが正しく運用しなければ効果は限られます。このような状態ではいつまでたってもカラス被害がなくなるはずがありません。

別コラムでも防鳥意識の大切さについて述べていますが、特にカラスに対しては街の一人ひとりが自分事と捉え、一丸となって取り組まない限り解決しないでしょう。都会や街のゴミを荒らすカラス公害は、実のところ人間がカラスを呼び寄せてしまっていることに原因があると思っています。

カラス対策には、正しい知識と高い防鳥意識を持てるかどうか

鳥害対策について考えた場合、防鳥商品に関しては1980年代と比べるとゆるやかですが進歩しています。一方で、それらを使用する人々の意識については、40年経った今も進歩していないように感じています。

むしろ、個々の生活や価値観が多様になった結果、地域住民として防鳥に対する意識を共有することも難しくなってしまっているようにも思います。カラスに限らず、鳥たちは建物の隙間だけでなく人々の意識から作り出される社会の隙間をも見つけ出して侵入してきます。

鳥害対策が成功するかどうかは、当事者が高い防鳥意識を持てるかどうかにかかっています。特にカラス被害に遭ってしまった場合は、地域一丸となって取り組んでいただくことが解決への近道だと思います。

この記事を書いた人

この記事を書いた人

山本 剛司

(株)コーユー代表取締役社長。1984年の創業当初から業務に携わり、鳥害に関する経験を重ねる。2008年二代目として代表取締役社長に就任。
鳥害対策市場黎明期より培ってきた業界経験と豊富な知識を基に、鳥害対策のエキスパートとしてオリジナリティある新商品の企画、開発を行う。

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